1983年の「ステロイド依存」
1983年の「ステロイド依存」
みなさん、実は久米宏のニュースステーション以前から、ステロイドの副作用=ステロイド依存に警鐘を鳴らした先生方がいました。今から30年前です。それをみてみたいと思います。
CLINICIANというエーザイの小冊子があります。
1983年 Vol,30 No,324に掲載されている「続 他科医に聞きたいちょっとしたこと」に「ステロイド外用剤依存からの離脱」という質問がされています。これに当時大阪回生病院皮膚科部長 須貝哲郎先生の回答が載っています。
http://www.e-clinician.net/vol30/no324/pdf/sp20_324.pdf
でも見ることが出来るそうです。(ただ、私のパソコンでは見れません)
CLINICIAN No.324 Vol. 30 (1983)
<続 他科医に聞きたいちょっとしたこと>
【ステロイド外用剤依存からの離脱】
湿疹などで皮膚専門医以外が気軽に投薬し、患者は長期間塗布し、なくなれば薬局で続いて購入していることがある。 局所副作用が出て、中止しようにも急に止めると癌痒、枇糠様剥離、発赤がひどくなり、特に女子の場合、美容上からも、悪循環となってしまう。本などには、すぐに中止するようにとだけしか記されていない。どのように離脱したらよいか? ステロイド濃度を減らしてゆく(基剤を増やす)のは有効か? (米子市、内科)
【回答 大阪回生病院皮膚科部長 須貝哲郎】
ステロイド外用による直接的局所副作用は、皮膚萎縮と血管壁の脆弱化に伴う毛細血管拡張および紫斑を主症状とし、ステロイド依存性を伴う。すなわち、外用中止により症状の増悪を来し、特に顔面から前頸部にかけての部位では、療痒、発赤、浮腫とともに皮膚の強い乾燥化を生じて落屑をきたし、あるいは痙瘡を多発する。 口囲皮膚炎とかステロイド酒厳とかいった病名は、顔面に生じたステロイド皮膚症を意味し、その依存性も他の部位よりはるかに強い。
ステロイド皮膚症を認めれば、直ちにその外用を中止するのが原則であるが、原疾患が存する場合には、その中止とともに原疾患の再燃増悪を招くことは必至である。たとえば、原疾患に乾癬やアトピー性皮膚炎の存する場合がこれに該当する。
乾癬患者のステロイド皮膚症では、効果の弱いステロイド外用剤に変え、PUVA療法などステロイド外用以外の治療法に順次切りかえてゆけるが、アトピー性皮膚炎患者の場合には、ステロイドの全身投与を一過性に行い、症状の増悪を抑えながら、弱いステロイド外用剤に切りかえるのがよいようである。
原疾患のない場合には、ステロイドを中止し、非ステロイド性抗炎症剤軟膏に切りかえると、顔面以外は比較的容易に症状が消退し、三〜六カ月後には正常皮膚に復する。
ステロイドの濃度を減ずるのも一つの方法だが、この場合は同一基剤で稀釈することが必要で、異なる基剤を用いると、基剤のバランスを崩し、皮膚刺激性を増し、皮膚の乾燥化を強めることがあるので注意を要する。完成された製剤を破壊することは別の局所副作用を生じかねないので、厳に慎しむべきであろう。効果の弱い第三群以下のステロイド剤に変更する方が常道と考える。
難しいのは、口囲皮膚炎ないしステロイド酒厳とよばれる顔面のステロイド皮膚症におけるステロイド離脱である。 効果の弱いステロイド剤外用をはさんで離脱を試みる方法は、その離脱期間を延長するようで、止むをえぬ場合の他は思い切って中止する方が離脱期間を短縮しうる。一過性にステロイドの全身投与を行う方がむしろよいようである。
ステロイド外用中止二週後に症状は最悪となり、乾燥落屑から疹痛を生じることさえあり、この苦痛にたえて一カ月辛抱しえた患者は離脱に成功している。麻薬患者の離脱に似て、思いきった完全中止の方が結果的にはよいといえる。美容的な意味もあって、女性の場合は入院加療がほとんどである。
水に浸したタオルを顔面にあてるだけで、その他の局所療法は白色ワセリンをうすく塗布する程度で、それも刺激症状を訴えれば、中止させ、ときどき試みさせて、症状改善の目安としている。離脱期間は皮膚の防禦能が著しく低下し、わずかな外界刺激に対しても強い炎症反応を呈するので、日光曝露をさけ、ワセリン以外のすべての外用剤使用を禁止している。内服はテトラサイクリン系抗生物質、特にミノサイクリンが最も有効である。
離脱の成否はいかに患者を納得させるかにあるようで、患者の協力なしでは成功しえないと思う。
以上です。
この中で、須貝先生は「ステロイド依存」は外用剤中止により症状の憎悪をきたし」と記され、顔面に生じる以外の「その他の部位」にも言及されています。
ステロイド外用剤の減量方法について詳しく述べられており、「思い切って中止する方が離脱期間を短縮しうる」とも書かれています。
須貝先生は、最後に「離脱の成否は以下に患者を納得させるかにあるようで、患者の協力なしでは成功しえない」と述べています。
ただ、外用剤中止時にステロイドの全身投与を勧めておられますが、減量に伴い悪化することが多いです。私は、外用ステロイドをゆっくり減量する方が現実的ではないかと考えています。
一番最初に「ステロイド依存」を報告したのが、1974年Dr.Kligmanでした。須貝先生から10年前です。
1974年、International Journal of Dermatology(Volume 18(1974) Issue 1, Pages 23 - 31)に掲載された「STEROID ADDICTIONAM. KLIGMAN, PJ. FROSCH 」においてDr.Kligmanによって、Steroid addiction(ステロイド依存)という語が、はじめて使われました。
Steroid addictionについてDr.Kligmanは「Steroid addiction is a more subtle and more insidious type of side reaction. It is common but is not high in medical consciousness because it frequently goes unrecognized. Hence, it is underreported and not well characterized.」 と記しています。
「ステロイド依存」は、副作用の中でも、より捉えにくく、潜行性のものだ。それは良くあることだが、しばしば気づかれにくく、報告も少なく特徴もよくわかっていない、と書かれています。
また、リバウンドについても述べられています。リバウンドは、アトピーの症状の変動であると認識されてしまい、リバウンドが重篤であれば、より強力なステロイドが処方されるが、それは、ステロイド依存をより深刻化させる。リバウンドによる皮疹の増悪は、基礎にある皮膚疾患とは異なった特徴をもつと書かれています。「レッドスキンシンドローム」といわれる状態が特徴的です。
「ステロイド依存(Steroid addiction)」や「リバウンド」という語は、1970年代以降、皮膚科医自身によって提唱されたものです。決していわゆる「アトピービジネス」などが言い出したものではありません。
その40年以上前から指摘されていることを、私たちはどう考えるべきなのでしょうか。
みなさん、実は久米宏のニュースステーション以前から、ステロイドの副作用=ステロイド依存に警鐘を鳴らした先生方がいました。今から30年前です。それをみてみたいと思います。
CLINICIANというエーザイの小冊子があります。
1983年 Vol,30 No,324に掲載されている「続 他科医に聞きたいちょっとしたこと」に「ステロイド外用剤依存からの離脱」という質問がされています。これに当時大阪回生病院皮膚科部長 須貝哲郎先生の回答が載っています。
http://www.e-clinician.net/vol30/no324/pdf/sp20_324.pdf
でも見ることが出来るそうです。(ただ、私のパソコンでは見れません)
CLINICIAN No.324 Vol. 30 (1983)
<続 他科医に聞きたいちょっとしたこと>
【ステロイド外用剤依存からの離脱】
湿疹などで皮膚専門医以外が気軽に投薬し、患者は長期間塗布し、なくなれば薬局で続いて購入していることがある。 局所副作用が出て、中止しようにも急に止めると癌痒、枇糠様剥離、発赤がひどくなり、特に女子の場合、美容上からも、悪循環となってしまう。本などには、すぐに中止するようにとだけしか記されていない。どのように離脱したらよいか? ステロイド濃度を減らしてゆく(基剤を増やす)のは有効か? (米子市、内科)
【回答 大阪回生病院皮膚科部長 須貝哲郎】
ステロイド外用による直接的局所副作用は、皮膚萎縮と血管壁の脆弱化に伴う毛細血管拡張および紫斑を主症状とし、ステロイド依存性を伴う。すなわち、外用中止により症状の増悪を来し、特に顔面から前頸部にかけての部位では、療痒、発赤、浮腫とともに皮膚の強い乾燥化を生じて落屑をきたし、あるいは痙瘡を多発する。 口囲皮膚炎とかステロイド酒厳とかいった病名は、顔面に生じたステロイド皮膚症を意味し、その依存性も他の部位よりはるかに強い。
ステロイド皮膚症を認めれば、直ちにその外用を中止するのが原則であるが、原疾患が存する場合には、その中止とともに原疾患の再燃増悪を招くことは必至である。たとえば、原疾患に乾癬やアトピー性皮膚炎の存する場合がこれに該当する。
乾癬患者のステロイド皮膚症では、効果の弱いステロイド外用剤に変え、PUVA療法などステロイド外用以外の治療法に順次切りかえてゆけるが、アトピー性皮膚炎患者の場合には、ステロイドの全身投与を一過性に行い、症状の増悪を抑えながら、弱いステロイド外用剤に切りかえるのがよいようである。
原疾患のない場合には、ステロイドを中止し、非ステロイド性抗炎症剤軟膏に切りかえると、顔面以外は比較的容易に症状が消退し、三〜六カ月後には正常皮膚に復する。
ステロイドの濃度を減ずるのも一つの方法だが、この場合は同一基剤で稀釈することが必要で、異なる基剤を用いると、基剤のバランスを崩し、皮膚刺激性を増し、皮膚の乾燥化を強めることがあるので注意を要する。完成された製剤を破壊することは別の局所副作用を生じかねないので、厳に慎しむべきであろう。効果の弱い第三群以下のステロイド剤に変更する方が常道と考える。
難しいのは、口囲皮膚炎ないしステロイド酒厳とよばれる顔面のステロイド皮膚症におけるステロイド離脱である。 効果の弱いステロイド剤外用をはさんで離脱を試みる方法は、その離脱期間を延長するようで、止むをえぬ場合の他は思い切って中止する方が離脱期間を短縮しうる。一過性にステロイドの全身投与を行う方がむしろよいようである。
ステロイド外用中止二週後に症状は最悪となり、乾燥落屑から疹痛を生じることさえあり、この苦痛にたえて一カ月辛抱しえた患者は離脱に成功している。麻薬患者の離脱に似て、思いきった完全中止の方が結果的にはよいといえる。美容的な意味もあって、女性の場合は入院加療がほとんどである。
水に浸したタオルを顔面にあてるだけで、その他の局所療法は白色ワセリンをうすく塗布する程度で、それも刺激症状を訴えれば、中止させ、ときどき試みさせて、症状改善の目安としている。離脱期間は皮膚の防禦能が著しく低下し、わずかな外界刺激に対しても強い炎症反応を呈するので、日光曝露をさけ、ワセリン以外のすべての外用剤使用を禁止している。内服はテトラサイクリン系抗生物質、特にミノサイクリンが最も有効である。
離脱の成否はいかに患者を納得させるかにあるようで、患者の協力なしでは成功しえないと思う。
以上です。
この中で、須貝先生は「ステロイド依存」は外用剤中止により症状の憎悪をきたし」と記され、顔面に生じる以外の「その他の部位」にも言及されています。
ステロイド外用剤の減量方法について詳しく述べられており、「思い切って中止する方が離脱期間を短縮しうる」とも書かれています。
須貝先生は、最後に「離脱の成否は以下に患者を納得させるかにあるようで、患者の協力なしでは成功しえない」と述べています。
ただ、外用剤中止時にステロイドの全身投与を勧めておられますが、減量に伴い悪化することが多いです。私は、外用ステロイドをゆっくり減量する方が現実的ではないかと考えています。
一番最初に「ステロイド依存」を報告したのが、1974年Dr.Kligmanでした。須貝先生から10年前です。
1974年、International Journal of Dermatology(Volume 18(1974) Issue 1, Pages 23 - 31)に掲載された「STEROID ADDICTIONAM. KLIGMAN, PJ. FROSCH 」においてDr.Kligmanによって、Steroid addiction(ステロイド依存)という語が、はじめて使われました。
Steroid addictionについてDr.Kligmanは「Steroid addiction is a more subtle and more insidious type of side reaction. It is common but is not high in medical consciousness because it frequently goes unrecognized. Hence, it is underreported and not well characterized.」 と記しています。
「ステロイド依存」は、副作用の中でも、より捉えにくく、潜行性のものだ。それは良くあることだが、しばしば気づかれにくく、報告も少なく特徴もよくわかっていない、と書かれています。
また、リバウンドについても述べられています。リバウンドは、アトピーの症状の変動であると認識されてしまい、リバウンドが重篤であれば、より強力なステロイドが処方されるが、それは、ステロイド依存をより深刻化させる。リバウンドによる皮疹の増悪は、基礎にある皮膚疾患とは異なった特徴をもつと書かれています。「レッドスキンシンドローム」といわれる状態が特徴的です。
「ステロイド依存(Steroid addiction)」や「リバウンド」という語は、1970年代以降、皮膚科医自身によって提唱されたものです。決していわゆる「アトピービジネス」などが言い出したものではありません。
その40年以上前から指摘されていることを、私たちはどう考えるべきなのでしょうか。